(1)メカニズム評価値「ストーム値」について
突然だが、トレーディングカードゲームの元祖であるMTG(マジック・ザ・ギャザリング)において、「ストーム値」という概念があるのをご存じだろうか。
「ストーム値」とは、特定のメカニズムがスタンダードに再登場する可能性を評価した数値である。
簡単に言えば、
・「このメカニズムいいやん! 何回も登場させよう!」
→ストーム値1(最高評価)
・「このメカニズムあかんやん! 二度と出てくるな、おバカ!」
→ストーム値10(最低評価)
という、メカニズムの良し悪しを評価するものだ。
ハースストーンでいえば、「ストーム値1」には「急襲」「生命奪取」「発見」等が挙げられるだろう。
ちなみに「ストーム」とはMTGで最も再登場がありえないメカニズム(ストーム値10)の名前からとられているので、せっかくなので今回はHS版の呼び名に変更する。
おそらく名称に異論はないだろう。
HS市場最悪のメカニズムの名前を借りて、「ストーム値」あらため「ゲンバク値」を使って、新モード「ツイスト」環境のカードプール「新時代」のメカニズムを振り返っていくのが本稿のテーマとなる。
(2)メカニズム評価
ストーム値は以下の5つの評価基準から総合的に判断して決められる。
- 人気/Popularity - プレイヤーがそのメカニズムを気に入ったか。
- デザイン空間/Design Space - そのメカニズムで作れるカードの枚数に余裕はあるか。
- 多用途性/Versatility - 他のメカニズムとの相性は良いか。そのメカニズムを使うためには多くのサポートが必要になるか。
- デベロップ/Development・プレイデザイン/Play Design - そのメカニズムのコスト設定や、バランスの調整は難しいか。
- プレイアビリティ/Playability - そのメカニズムをプレイヤーが理解する上で問題はなかったか。使用する上で物理的な問題はなかったか。
以上の評価基準に沿って、「灰に舞う降魔の狩人」~「集え!レジェンド・フェス」に登場した新メカニズムを評価していこう。本家ではそれぞれの基準で一つずつ評価するのだが、それで書いてみたら非常にかたっ苦しく疲れてきたので、ふわっと触れる感じで進めていくことにした。なので、上記の基準もふわっと読み飛ばしてふわっとついてきてくれるとありがたい。
①灰に舞う降魔の狩人
「異端」 ゲンバク値2
手札の並びを参照するというのは今までのHSにない画期的なシステムだった。考えることが増え、プレイに選択肢が生まれ、ほどよいジレンマをプレイヤーに与えてくれる。多少の制限はあるが、基本的には「異端」のボーナス効果で使えることが多い。
ボーナス効果は、基本的に使っていて気分がいい。
デザインの観点でも、「異端」でボーナス効果をつければいいだけなので、特に制限はない。開発者にも優しいメカニズム。
強いて言うなら、コストが重いとデッキトップから引いても右端から「異端」で使えなかったり、他の「異端」を左に寄せるのが難しかったりするので、通常のカードよりもコスト増減によるカードパワーの振れ幅が激しいことが難点か。「霊視力」などのコストの軽いカードは初登場からずっと使われているが、コストの重いカードはなかなか活躍できないのが現状だ。
「休眠」 ゲンバク値6
「休眠」は基本的にデメリットであり、「休眠」のせいで負けた、というパターンが少なからず存在する、ストレスになりうるシステムだ。もちろん、デメリットを補うだけのポテンシャルを持っているのだが、人間はメリットよりもデメリットに目が行ってしまう。
「休眠」はミニオンが盤面に干渉するのが遅れるメカニズムなので、その能力によってそのデメリットを補完する必要がある。「急襲」「挑発」「休眠明け時の除去能力」等が代表的。逆に言えば、それ以外で使われるような「休眠」のデザインは非常に難しく、デザインは実質かなり制限されている。
最初から休眠で登場するタイプは使いづらいので、再登場するにしても、初代休眠の「死体花シェラジン」、最新休眠の「ソーリべローレ」のように、メリットとしての「休眠」が基本となっていくだろう。
②魔法学院スクロマンス
「デュアルクラス」 ゲンバク値3
異なる二つの要素が合わさるという時点でまずかっこいい。光と闇が合わさり最強に見える。
デュアルクラスの組み合わせ自体はまだまだあるので、デザイン空間は有り余っている。「デュアル種族」が生まれたこともデザイン上は追い風。例えば、悪魔マーロックにするだけで簡単にシャーマン・ウォーロックのデュアルクラスカードが作れる。
2クラスで使える分、デュアルクラスのパワーカードは2倍活躍してしまうという懸念もあるかもしれないが、個人的には大いにパワーカードが生まれてほしい。万能なパワーカードは様々なデッキを成立させる下地となってくれる。
「魔法活性」 ゲンバク値9
確実に活用するためには呪文と同時に使う必要がある、不自由なメカニズム。
「スクロマンス」には魔法活性用に軽く使いやすい呪文が多く採用された。つまり、魔法活性のために他のカードデザインが制限されたと言うこともできる。また、呪文の得意不得意はクラス間での差が大きく、クラス格差を助長する要因にもなってしまう。
必要条件が多いメカニズムはあまり好ましくない。
③ダークムーン・フェアへの招待状
「変妖」 ゲンバク値7
先に重いカードを使っておくことでボーナスが得られるので、マナコスト通りには使いづらい不自由なメカニズム。
変妖単体で見れば不自由ではあるが、コストの重いカードへの動線となっていることは評価しなければなるまい。「怪力男」に代表される変幼カードがあることによって、本来使いづらいコストの重いカードの価値を高めている。「ダークムーン・フェア」は10コストの「旧神」をテーマにしたセットなので、それらの重いカードが使われるようにする役割は果たしたのではないだろうか。
とはいえ、手札に変妖できない「チケッタス」を抱え枕を濡らした夜を思えばあまり手放しに称賛するわけにもいかない。
④荒ぶる大地の強者たち
「逆上」 ゲンバク値8
個人的に今まで挙げた中で最も存在感の薄いメカニズム。
お互いミニオンを盤面に並べ合う闘技場のような環境だと単純に使ってジレンマや駆け引きが生まれるのだが、優秀な除去の多い構築ではサポートが必要な手間のかかるメカニズム。次拡張の「ストームウィンド」を含めて当時のスタンダードがコンボ環境で、ミニオン同士のトレードが主流じゃなかったことも逆上には逆風だった。
登場時は「狩人」にいた「改造屋」シリーズが優秀なサポート役を果たしていたものの、それらがスタンダードから落ちると途端に起動は難しくなってしまう。
根本的なことを言ってしまうと、やっていることは昔からある「激怒」と同じで、そもそも面白みがない。
「ランク付き呪文」 ゲンバク値4
序盤は弱く、中盤以降に強くなる。こう見ると環境で悪さをしない優等生なメカニズムである。だいたいランク2(5~9マナ時)で使うので、ランク2が基本性能の普通の呪文のイメージでしかない。ランク1の「邪道刺し」をうっかり4点ダメージのつもりで使ってしまった私のような人も多いのではないだろうか。重箱の隅をつつくようではあるが、ランクが上がって絵柄は変わるもののそれだけではちょっとわかりづらく、プレイ・アビリティは多少悪いか。
ランク付き呪文がスタンダードに帰ってきて喜ぶ人もいなければ、嫌がる人もいないだろう、そんな存在。寿司で言えば穴子。異論は認める。
⑤風集うストームウィンド
「連続クエスト」 ゲンバク値3
開発陣お気に入りクエストメカニズムが三度目の登場で進化した姿。
クエストは達成報酬をもらうまでは1マナ+手札1枚を損しているので、早々に達成しないと損をしている期間が長く、使い勝手が悪いという欠点を持っていた。
連続クエストは中間報酬があることで、最初の損を速やかに回収することができる。その上で最終達成は難しいので最終報酬にド派手なものを用意できるため、デザインの幅も広がった。
今までの傾向からしておそらく来年あたりにクエストは採用されるだろうが、その時は間違いなく連続クエストの形をとるだろう。間違っていたら桜の下に埋めてもらっても構わないよ。
「交換可」 ゲンバク値1
手札と盤面が噛み合わない。カードゲーマー永遠のストレスをちょっぴり軽減してくれる優しいやつ。ハースストーン界のバファリン。
また、特定の状況や対戦相手にだけ強いメタカードは手札で腐ることを嫌ってなかなか採用されないが、交換可がついていると採用ハードルはぐっと下がる。いらなければ交換してしまえばいいのだから、手札で腐って敗因になることはない。こうしたメタカードがあると特定のデッキが環境で暴れることを抑制できるため、環境のバランスを保つためには存在するだけですばらしい。ハースストーン界の安全弁。
ここまでで折り返し。
後半へ続く。