これからのヨグ=サロン様の話をしよう

Hearthstoneについての自由帳

あの日見たパッチノートの衝撃を僕達はまだ知らない。

【前書き】

今更ですが、最近、ハースストーンのゲームデザインに大きな転換があったことはご存じでしょうか。

ローンレンジャー・レノ死の大車輪!!!時導巻きのザリミ等がナーフされた2024年4月26日29.2.2パッチノートにおいて、以下のような開発者コメントが出されています。

 

~現在、プレイヤーの主体性を失わせし、拡張版4セット分のメタとしては望ましくないほどゲームのパワーレベルを上げているカードが多数あります。このパッチでは、そういったメタの現状を定義している様々なカード、例えばOTKスタイルのカードから、いくらミニオンを出しても無意味と感じさせるほど強力な範囲攻撃効果などに注目しています・

「ハースストーン」には常に、クールで夢のようなカードが存在しています。それは「ハースストーン」を「ハースストーン」足らしめている大切な要素の一つです。しかしながら、そういった種類のカードは時に、使う側と使われる側の感じる楽しさが不釣り合いになることがあります。我々はこの種のカードが、ゲームで最も強力で流行しているアーキタイプを構成することを望んでいません――特に、プレイヤーの主体性が低く感じられるようなメタゲームを生み出すのであればなおさらです。

29.2.2パッチノート

 

 

私はこの文面にかなり衝撃を受けました。

 

その衝撃について説明するとちょっとややこしく、ここ数年のハースストーンの変遷から話さなければなりません。

少々長くなりますが、ゆるりとお付き合いいただければ幸いです。

 

 

【ハースストーンの変遷について】

 

①カードパワーのインフレ

 

カードゲームは年数がたつごとにカードパワーがインフレしていくものです。ハースストーンはスタンダードローテーションというインフレへの対策をしていますが、それでも完璧に防ぐことはできません。2016年当時、魔法のワタリガラスドルイドのクラスカードとして特別に許された驚異の1コスト2/2スタッツとして脚光を浴びました。2024現在、同スタッツの奇跡の薬売りは中立カードな上にメリット能力までついています。

 

 

カードパワーの多少のインフレは仕方ないものですが、一つどうしても無視できない問題があります。カードパワーが上がると、ゲーム内で発生するダメージ量が増えます。一方、ヒーローの体力は変わりません。基本的には。

そのため、カードパワーのインフレには、ゲームスピードが上がってしまう危険性が含まれています。

 

ヒーローの体力を変えてしまう例外

 

極端な例になりますが、お互いに1/1ミニオンを毎ターン一体ずつ出すゲームでは、先手が出し、後手が出し、先手がヒーローを殴り、後手がミニオントレードをし、と繰り返すことで決着に31ターンかかります。それが2/2ミニオンになれば決着は16ターンと二倍の速さで終わってしまうのです。

そのためにゲームスピードが速くなり過ぎないよう注視し、防止策が必要でした。具体的に言えば、ミニオンのインフレ以上の、回復・除去の強化です。

 

 

どのクラスでも使える汎用的な強力カード、ジリアックスアスタラー・ブラッドスウォーン永遠の炎イグニスジリアックスDX3000等に回復性能があるのはそうした意図が隠されています。

生命奪取キーワード化し、年々増えているように感じているそこのあなた、さすがです。お気をつけて、勘のいいガキは嫌われますよ。

 

 

②強くし過ぎざるをえなかった除去

 

次に除去についてですが、まず、ハースストーンの除去は弱いです。

 

待って、待って。

ため息ついてブラウザバックしないで、もう少し聞いてください。

 

ハースストーンのゲームシステム上、除去はどうしても弱いのです。

私はMTGマジック・ザ・ギャザリング)というカードゲームもかじっていたのでその比較になるのですが、MTGは相手ターンにも使える除去が基本であり、重宝されます。相手ターンに使えると、後で出てきたより強いミニオンを除去したり、強化呪文や突撃に対応できたりと、使い方に融通が利くからです。自分のターンにしか使えない除去は全体除去など、特殊な強みを持つものに限定されがちです。

ハースストーンはそのゲームシステム上、自分のターンにしか除去を使えません。MTG基準で言えば、この時点でかなり弱いのです。

ただでさえ除去にはその性質上、「雄たけびや急襲・突撃は防げないので除去してもその分は損になる」「ゲーム展開や相手のデッキ次第で腐りやすい」という弱みを持っています。

こんなにも除去は弱いのに、①で述べたように、カードパワーのインフレに対応するために除去は強くある必要があります。

一見困難なこの問題を解決する方法は一つしかありませんでした。

 

それは極めて単純明快、「めちゃくちゃ強い除去を作る」です。

 

その結果、強くし過ぎた除去がナーフされ続けることになりました。

しかし、仕方がなかったとも言えます。

「めちゃくちゃ強い除去を作る」ことが必要な理由があったのです。

 

仕方なかったんだ、許してくれ

 

 

③カード生成が多すぎた反省

 

以前カード生成の変遷についての記事でも触れましたが、ハースストーンは一時期カード生成が多すぎて批判された時期がありました。その反省から、カード生成を減らし、デッキ内のカードが勝敗を決するようにしたいと当時の開発者Dean Ayala氏は答えています。

 

~私たちはカード生成カードを減らしたいと思っています。そのため、これまでよりデッキに採用されているカードによって勝利が決まります。

クラシックフォーマットに比べれば、まだまだ多くのカード生成カードがありますが、ここ1、2年はかなりその数を減らしています。

BeerBrick 開発者のDean Ayala氏がコミュニティの質問に回答(3月18日)

 

このインタビューは2021年荒ぶる大地の強者たち実装時のもので、事実として、この二年前のドラゴン年(爆誕!悪党同盟突撃!探検同盟激闘!ドラゴン大決戦)と比べて、カード生成を減らし続けていました。しかし、減らしているとはいってもカード生成によるバリューや対応力の価値は高く、なおもゲームの大きな部分を占めていました。「デッキに採用されているカードによって勝利が決まる」とはとても言い切れない状況です。当時の最強デッキはコントロールプリーストで、死者蘇生セセックのヴェールウィーヴァー等のカード生成効果が大活躍していました。

「デッキに採用されているカードによって勝利が決ま」るためには、カード生成によるバリューや対応力では解決できないほどの、強力な決定力をデッキに持たせる必要がありました。それが、次拡張の風集うストームウィンドで有言実行されます。連続クエストの多くは強力な決定力をもっており、カード生成だけでは太刀打ちできません。

 

連続クエストの強力な決定力

 

これもブログに書いたことがあるのですが、この環境でコントロールは死滅し、自分のデッキの強い動きをぶつけたもん勝ちな世界が幕を開けます。

カード生成批判へのアンサー、「デッキに採用されているカードによって勝利が決ま」る環境が、ついに実現したのです。

 

その後も、連続クエストのように強力な決定力を持つカードは随時登場し続けます。ちなみに、②で述べたように除去は意図的に強力にしてあるため、単純なミニオン展開だけではなかなか勝負は決まりません。

盤面に頼らずに勝つことができる、強力な決定力を持つフィニッシャーが求められ、登場し、暴れ散らかし、多くの場合やりすぎてナーフされてきました。

ただ、これも②と同じように仕方がなかったのです。

上述したように、強すぎるフィニッシャーを作ることが必要な理由があったのです。

 

仕方なかったんだ、許してくれるよな

 

逆に言えば、強力なフィニッシャーたちによって「デッキに採用されているカードによって勝利が決ま」る世界が実現したので、カード生成を減らす理由はなくなりました。いくらカード生成をしようと、その影響力はフィニッシャーに遠く及びません。カード生成の変遷についての記事でカード生成効果が最近増えてきているという結論がでましたが、それは決してブリザードが鳥頭でカード生成を減らすことを忘れたわけではなかったのです。

カード生成自体は面白く本来評価も高かったのに、カード生成のゲームへの影響力が高くなりすぎたのが問題でした。

「デッキに採用されているカードによって勝利が決ま」る環境が実現したため、カード生成を増やしても問題ないと判断された故なのです。

 

 

【パッチノートの衝撃】

 

ここで改めて前書きに置いたパッチノートをもう一度読んでみましょう。

 

~現在、プレイヤーの主体性を失わせし、拡張版4セット分のメタとしては望ましくないほどゲームのパワーレベルを上げているカードが多数あります。このパッチでは、そういったメタの現状を定義している様々なカード、例えばOTKスタイルのカードから、いくらミニオンを出しても無意味と感じさせるほど強力な範囲攻撃効果などに注目しています・

「ハースストーン」には常に、クールで夢のようなカードが存在しています。それは「ハースストーン」を「ハースストーン」足らしめている大切な要素の一つです。しかしながら、そういった種類のカードは時に、使う側と使われる側の感じる楽しさが不釣り合いになることがあります。我々はこの種のカードが、ゲームで最も強力で流行しているアーキタイプを構成することを望んでいません――特に、プレイヤーの主体性が低く感じられるようなメタゲームを生み出すのであればなおさらです。

29.2.2パッチノート

 

「OTKスタイルのカード」

「強力な範囲攻撃効果」

問題とされているこの二つは、強力なものである必要がありました。

強すぎたのは、確かにその通りです。しかし、決して、偶然やテストプレイ不足だけで起こったものだとは思えません。カードパワーのインフレに対応するために、デッキに採用されているカードによって勝利が決まるために、これらは強くなければなりませんでした。

 

それらがゲームの主になることを望んで、今まで作ってきたんじゃないのか。

そうでなければ、強力範囲攻撃効果とOTKを大量に登場させ続けた説明がつかないじゃないか。

という、梯子を外されたような衝撃が私にはありました。

 

「使う側と使われる側の楽しさが不釣り合いになる」のは理解できます。急なOTKでゲームが終わるのは理不尽に感じますし、せっかく並べた盤面を強力な範囲攻撃効果で簡単に対処されるのは面白くありません。

 

では逆に、それらがない場合はどうなるでしょうか。

 

OTKがなければお互いリソースを消耗し続ける間延びしたゲーム展開になります。

強力な範囲攻撃効果がなければ一方的な展開に蹂躙されるゲーム展開になります。

これらはあくまで極論です。このような極論の文句はいつでも言えるので気にしてはきりがありません。

ただ、極論ではありますが、こうした危険性自体は確実にあるのです。

 

 

【今後のゲームデザイン

 

パッチ29.2.2の予告の際に、バランス調整について以下のような開発者の洞察が出されています。

 

このパッチでは、私達が通常行っているような特定のメタの健全性の問題を修正するのではなく、スタンダードの全体的な健全性に現れた問題に対処しようとしています。デザインチーム内で警鐘がなり始めたのは、最近のハースストーンのパワーレベルが、年1回のローテーション後も、全くと言っていいほど下がっていないように見えることに気づいたときでした。特に超効率的なAOE盤面除去や、十分なカウンタープレイがないOTKデッキ、そして時導巻きのザリミローンレンジャー・レノ死の大車輪!!!のような強力なレジェンドがゲームを終わらせる、あるいは事実上ゲームを決定づけるほどの変化をもたらす傾向があります。これらのカードは、使用しているプレイヤーにとっては非常に楽しいものですが、使われる側にとっては、自分にほとんど主体性がないと感じられることが多いのは明らかです。

プレイヤーの主体性を全体的に高めることは、今回のパッチで私達が重視したことであり、流行中の強力で主体性を低く感じさせるカードやデッキタイプの傾向が逆転したと感じられるようになるまで、重視していくでしょう。私達はエキサイティングで夢のような低主体性のカードが存在することは問題ないと考えていますが、それがゲーム中で最も強力なのであれば話は別です。

最新拡張では、これらのカードのデザインの多くが強力なメタ候補になることを許してしまいました。最終デザインチームのリードデザイナーである私の責任は、そうならないようにすることです。このパッチが、このような過ちをいくつかの軌道修正のための大きな一歩になることを期待していますし、このような大きな変化の後にプレイヤーからのフィードバックを注視することで、ペガサス年の今後の拡張セットにとっても良いものになることを願っています。

BeerBrick パッチ29.2.2予告:バトグラ&構築のバランス調整

 

要はバランスの問題です。

 

OTKがあってもいい。

強力な範囲攻撃効果があってもいい。

ただ、それらがゲーム中で強力すぎて、それらばかりになってしまうのはよくないというだけの話です。それらは「低主体性」のカードであり、「存在することは問題ないと考えていますが、それがゲーム中で最も強力なもの」であることはよくないと開発者側は明言しました。

 

この考えは、今まで強力範囲攻撃効果とOTKを大量に登場させ続けたことと矛盾します。

つまりこれは、今後は強力範囲攻撃効果とOTKを控える、もしくは強すぎないものにするという、一大方針転換宣言なのです。

 

また、「いくつかの軌道修正のための大きな一歩」と言っていることから、将来のゲームバランスの調整が複数あることを示唆しています。実際にこの後の5月14日29.4パッチノートで深層採掘工ブラン鞍を置け!のナーフ、パッチ日未定29.4.2パッチノートで溶岩の巨人決斗!のどが渇いた流れ者のナーフと、高頻度でナーフが発表されました。

今までは、強力範囲攻撃効果とOTKにあふれた世界であることが前提として他のカードもデザインされてきました。転換した方針に他カードも合わせるために、今後もバランス調整が繰り返されると予想されます。

 

 

【まとめ】

 

「プレイヤーの主体性を全体的に高める」とは耳障りのいい言葉です。

ただ、それが具体的に何を指すのかはまだ判断がつきません。

 

少し気になるのは、一度は反省した大量のカード生成が主だったゲーム体験は、プレイヤーに状況ごとの選択を何度も迫る「主体性」のあるものでした。

カード生成効果が増え続けている現状と合わせて、もしかしてまた大量生成時代に逆戻りするのではと、どうしても憂いてしまいます。

幾度のバランス調整を経て、発掘ローグがどんどん台頭してきているところも含めて、なんだか怪しくないですか?

 


また、主体性を高めきられずに、結局弱体化してもなお健在なOTKと強力範囲攻撃効果に頼るだけという、元の木阿弥な結果に終わらないかとも憂いています。カード生成の減少もデザイン変更が実際のゲーム体験に影響するまで2年ほどかかっているため、こちらはある程度仕方がないのかもしれません。

 

 

繰り返しになりますが、結局はバランスの問題です。

どちらが絶対正しい、面白いといったものではないし、そもそもプレイヤーによって好みも違うでしょう。

 

 

身もふたもないことを言えば、憂いたところでどうにかなるものでもありません。

 

ただ、ゲームデザインに大きな転換があったことを皆さんと共有してみたくて、今回筆を執りました。

 

オーダーはシェフに届かないのですから、私たちにできるのは、出された料理をおいしく食べることだけです。

栄養バランスの取れた、おいしい料理が出てくることを、今は楽しみにしておきましょう。